1) 慢性炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)に対する診療
炎症性腸疾患とは
クローン病、潰瘍性大腸炎は、原因不明の慢性的な炎症性腸疾患であり、厚生労働省が難病に指定しています。元来は欧米人に多く認められる疾患でしたが、近年では患者数はすでに潰瘍性大腸炎が17万人、クローン病も4万人を越えていることが報告され(2014年度)、もはや本邦でも稀少疾患ではなくなる時代が到来しつつあるといえます。
これらの疾患は、持続性あるいは反復性の下痢、腹痛、血便、発熱などの症状が特徴的で、比較的若い年齢層(10〜30歳代)で発症する病気ですが、近年は中高年層での発症も認められます。繰り返す再燃症状のため、学業、就労などの社会生活の質を著しく低下させるのみでなく、成長期に放置されると栄養の吸収障害から成長障害をきたす可能性があります。
クローン病と潰瘍性大腸炎の違い
クローン病と潰瘍性大腸炎はもちろん全く異なる疾患で、潰瘍性大腸炎は大腸のみ(希に胃、十二指腸、小腸)に出血を伴った炎症をきたす疾患である一方で、クローン病は口腔内から食道、胃、十二指腸、小腸、肛門まで全消化管に炎症をきたす可能性のある疾患です。
潰瘍性大腸炎は全身状態を脅かす様な大量出血を有する重症例では輸血や全大腸の外科的な切除を必要とすることもありますし、クローン病は進行して腸管の狭窄(狭くなる)や穿孔(穴が空く)、膿瘍(膿がたまる)などの合併症を起こせば、原因となる腸管の外科的切除が必要となることがあります。
一方で、最近は、特徴的な腹部症状がないにも関わらず、難治性の痔を契機に発見されるクローン病や、大腸癌検診の便潜血陽性を契機に発見される潰瘍性大腸炎など、早期の状態で発見・治療され、良好な経過をたどる患者さんも数多くいらっしゃいます。
アメリカ合衆国の第34代大統領アイゼンハワー(Dwight D.Eisenhower 1890-1969)は、本人がクローン病である事を公表していました。1949年にクローン病を発症しましたが、東西冷戦の世界的緊張のなか1950年に北大西洋軍最高司令官に就任、1953年に大統領に就任した後は、8年間の任期中に2回の手術を受けたにもかかわらず、行き詰まっていた朝鮮戦争を休戦に持ち込んだ事で知られています。
確定できるデータまでは残っていないようですがJ.F.ケネディー大統領は潰瘍性大腸炎であったと推測されていますし、現在、我が国を支えている安倍晋三総理大臣も潰瘍性大腸炎であることが知られており、治療中でありながら、多忙な職務をこなされています。
この様に、炎症性腸疾患を発症しても、適切に診断され治療を行えば、一国のトップとして職務をこなすことができるのです。
炎症性腸疾患の診断と治療
クローン病、潰瘍性大腸炎の診断は、特徴的な症状に加え、血液検査、X線検査(バリウム検査)、内視鏡検査、生検病理検査(内視鏡で採取した細胞の検査)などにより総合的に診断され、同時に病気の重症度が判定されます。当院ではこれらを適格に診断し、患者さんの病態や生活背景に応じて内服治療(5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節剤など内服療法)、局所治療(5-ASA製剤、ステロイド製剤の座薬、注腸療法)、栄養療法を行っている他、生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、ステラ-ラ、シンポニーなど)を用いた治療も行っています。
入院治療やその他の特殊な治療が必要と判断された場合は、基幹病院と連携した対応を行っています。
難病医療費助成制度
これらの炎症性腸疾患においては、難病法に基づき、患者さんの医療費負担の軽減を目的として医療費の一部を助成する制度があります。当院で診断、治療された患者さんは、書類を揃えて各市町村窓口(お住まいの地域の保険所)へ申請し、認定されれば医療費の助成を受けることが出来ます。
当院は福岡県が指定した難病指定医のいる難病指定機関です。原因不明の下痢、腹痛、血便などがあればお気軽にご相談下さい。
症 例
長浜クリニックで発見され治療中の潰瘍性大腸炎患者
2×歳女性、元来健康であったが、持続する下痢と血便で受診された。
【発見時内視鏡所見】(写真左)
全大腸にびまん性の炎症と易出血性の粘膜を認め潰瘍性大腸炎全結腸型と診断された。
【治療後内視鏡所見】(写真右)
5-ASA製剤が投与され、炎症所見が消失した(寛解導入)。